一般社団法人 地域創造

石川県野々市町 BIG APPLE in Nonoichi

 野々市町(ののいちまち)には、近隣市町村のジャズ愛好家が一緒になって結成した「ムーンライト JAZZ オーケストラ」という、今年で結成16年を迎えたビッグバンドがあります。

 

 このバンドが1993年の「全日本社会人ビッグバンドコンテスト」で優勝。ごほうびとして世界3大ジャズフェスティバルのひとつ「モントレー・ジャズ・フェスティバル・クルーズ」に招かれました。そのとき、金沢のジャズ喫茶のマスターの紹介で、ニューヨーク総合芸術大学「NEW SCHOOL」を訪問。ジャズのアカデミックな側面と口承による伝統の統合した音楽教育に触れ、教授をつとめるビッグなミュージシャンたちと意気投合し、「君たちの活動している町で本場のジャズのスピリッツを伝えたい、そういうことは出来ないだろうか」という願ってもない話が飛び出しました。

 

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 日本に帰ってきたメンバーは、早速この話を文化会館にもって来ました。野々市町(人口約4万人)は金沢市のベッドタウンとして近年急成長しましたが、観光としてアピールできるものがなく、特徴のある文化の発信を模索していたところだったのでトントン拍子に話が進み、昨年には第1回フェスを実現。
このイベントの最大の特徴は、ニューヨークから超大物を招くにもかかわらず、プロモーターなどの手を借りず、すべてジャズを通して知り合った素人たちの手づくりで招聘・企画・準備・運営していることです。ミュージシャンたちは、このフェスがスタッフの強力な熱意で催され、商売が目的ではないと理解しているので、ほとんど実費で来日してくれます。まさに人と人とのつながりで生まれ、行われている人間味あふれる温かいイベントなのです。

 

 もう1つの特徴は、ただ単にコンサートを行うのではなく、前日に来日したミュージシャンが複数の公開クリニックを行い、広く本場ニューヨークの音楽教育を直接体験・見学して、ジャズのスピリッツを受け止めていることです。皆が驚いたのは、アメリカ式のジャズ音楽教育には楽譜がないということ。耳で受け止めた音とそのときの気持ちを音で表現することに重点をおいた、技術より心を磨く教育は日本とはまったく違ったものでした。

 

 今年も10月19日から20日まで第2回フェスを開催しましたが、クリニックの見学者は、「見てるだけなのに、自分が実際クリニックを受けてるみたい」「ジャズって難しいと思ってたけどそうでもないね」「早く明日のコンサートが聞きたくなった」と大好評。

 

 そしてコンサート当日。ニューヨークのメンバー、ムーンライトJAZZ オーケストラ、ボーカルの綾戸さんのセッションは圧巻で涙を流すお客さんまで現れるすごいものとなりました。長い間ムーンライトのファンをしている人たちも「まさかあんなにスゴイ音をだすバンドだと思わなかった」と手ばなしで、ニューヨークから来たミュージシャンも口々に「ノーアマチュア、プロフェッショナルバンド」と言ってくれました。

 

 また、今年初めて実施したゴスペルのコーラスワークショップには、野々市町のフォルテ児童合唱団が参加。ミュージシャンとの競演でその成果を披露すると、知らされていなかったお客さんは、いきなり子どもが英語の歌詞で手をたたきながら元気に歌い出すのを見て驚き、大喝采。子どもたちにとって忘れられない出来事になりました。

 

 アンコールも終わりコンサートももう終わり。皆の拍手がホールに響き、ひとり、ふたりとスタンディングしはじめました。最後はほとんどの人が立ち上がり、スタンディングオベーション。これを見たとき、イベントを提供する側とされる側の気持ちがひとつになったと、とても感動しました。

(野々市町文化会館 池上直樹)

 

●BIG APPLE in Nonoicho'96
[主催]野々市町、野々市町教育委員会、ビッグアップルイン野々市実行委員会
[会場]野々市町文化会館フォルテ
[日程]10月19日、20日
[プログラム]

 

◎ワークショップ&クリニック(19日~20日)
ジャズ・オーケストラ・クラス/ブルース・レッスン/ジャズのリズムとビート/ギター道場/ジャズ・スタンダード・クラス/コミュニケーション・デザイン・クラス/ジャム・セッション/ムーンライトJAZZオーケストラ公開レッスン/ジャズ・コーラス・ワークショップ 全9コース
◎コンサート(20日)
16:30開場 カクテル・レセプション
18:00開演

 

[出演及び講師]

 

ジュニア・マンス(ピアノ)、フランク・フォスター(サックス)、デイブ・ギブソン(ドラムス)、アール・メイ(ベース)、井上智(ギター)、綾戸智絵(ヴォーカル)、ムーンライトJAZZオーケストラ

 

地域創造レター 今月のレポート
1996年12月号--No.20

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