一般社団法人 地域創造

長野県飯田市 飯田文化会館 市民創作ミュージカル『かざこし姫となかまたち』

 飯田市では93年から5年にわたる「地方拠点都市文化推進事業」を実施してきました。その事業の1つに飯田文化会館が行った公演『かざこし姫となかまたち』(96年2月4日~11日)があります。これは、同館が「貸館」から「事業館」へと方向転換した頃から懸案となっていた創作市民ミュージカルで、アマチュア市民がプロの指導を受けながら2年の歳月をかけて制作したものです。
 
 オリジナル作品のモチーフとして選ばれたのは、飯田市の西方に聳える山を守る風の神「かざこし姫」で、ふじたあさや先生に地域に伝わる伝統・伝承芸能などを素材にした脚本の制作と演出をお願いしました。それからというものすべて初めてづくしで、94年7月にスタッフ・キャストを一般市民から公募したのを手始めに、150名の応募者をオーディションでキャスト55名、スタッフ60名にしぼり込み。スタッフは美術、衣裳、照明、人形製作に分かれて9カ月にわたってプロの指導を受け、衣裳や照明はデザインプランづくりから、舞台美術も傾斜舞台(開帳場)をつくるところからやりました。

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 アマチュアが初めて芝居づくりに挑戦するのですから現場のエピソードには事欠きません。例えば、初めてつくった主人公の衣裳デザインはあまりに漫画チックで演出家も衣裳デザイナーも愕然としたとか。合唱コロスの衣裳は製作まですべて飯田で行うことにしたのですが、裁断、縫製の手順などプロの方から指導してもらったにもかかわらず最初の1着が予定日までに仕上がってこない。原因はプロの「言葉」をアマチュアが正しく理解できず、寸法取りなど指示の受け取り方がまちまちでつくれなかったから。また、今まで見たこともない傾斜舞台でうまく動けないとか・・・。
 
 悪戦苦闘しながらも、プロの技術やアイデアの助けを借りながら、ブランコ、ゴンドラ、花火、ドライアイスの川、飯田特産の「水引」の雨など、我々では想像もできないような装置ができあがり、傾斜舞台の効果が表れたダイナミックなステージが仕上がってくると、そのスケールの大きさに驚かされることしきり。
 
 この間、恒常的な事務スペースの提供、閉館時間の延長など管理体制さえ整えば可能なことには極端な逸脱のない限り対応する、職員はメンバーの一員という意識で参加する、という2点を心がけ、行政はあくまで「見守りながら側面からバックアップする」という姿勢で臨みました。市民サイドは、100名あまりが参加することもあり、全体のとりまとめも並大抵のことではありませんでしたが、20年近く市の文化協会の事務局を担当し、毎年、伊那谷文化芸術祭を実施してきた小澤廣人さんが制作として参加されたことで、行政やプロと市民の間にたつ交渉窓口ができたなど、行政・市民・プロの関係づくりについても成果のあった事業だと思います。
 
 また今回の事業の隠れたテーマである人づくりについては、「プランニングからオペレーションまですべてプロと市民が一緒に考える」という原則のもと、演出家の提案でプロのスタッフ会議を市民参加者の目の前で「公開」で行っていただきました。プロの方がプランを練っていく過程を見られたこと、演出家とプランナーが意思の統一をはかっていく葛藤を見られたことは、本当によい勉強になりました。
 
 チケット代3000円(子供1500円)にもかかわらず、初日の公演が評判となり急遽追加公演を行うほどの大成功で、市民10万7000人の内、5000人を超える方々にご覧いただけました。最後の頃は地域をあげての興奮状態でしばらくは何が起こっているのか自分たちでもわからないほどでしたが、舞台を経験したこともない100名を超えるアマチュアが2年の歳月をかけてひとつのミュージカルを完成させたことは、この伊那谷の文化に新しい力と風を生みだしたと思います。このメンバーが学んできたことを無駄にしないで、この地域の文化活動をあらゆる面から引っ張っていく原動力となることを願っています。

(飯田文化会館 中島弘貴)

 

●市民構成劇創作事業「かざこし姫となかまたち」
指導:作・演出/ふじたあさや、音楽/岡田和夫、振付/加十詩絵、舞台美術/西山三郎、照明/坂本義美、衣裳/中矢恵子、人形デザイン/福永朝子、大道具制作/原浩、音楽指導/田島美津子
[主催]文化庁、長野県教育委員会、飯田文化会館
[公演日時]96年2月4日、10日、11日(5公演)
[公演会場]飯田文化会館(長野県飯田市高羽町5-5-1 Tel.0265-23-3552) 

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