一般社団法人 地域創造

沖縄県那覇市 「新感覚的民族音楽シリーズIII」弦と歌う

 沖縄では、日本文化を源流としながら、中国、東南アジアの文化をも取り入れて独自の文化を発展させてきました。 その沖縄で、日本、アジアのみならず世界各国の音楽家の顔合わせによって、民族音楽のすばらしさ、使われている楽器のすばらしさを次世代に伝えていこうと始まったのが、パレット市民劇場の自主企画事業「新感覚的民族音楽」のシリーズです。民族音楽を伝統音楽として単に伝えていくだけでなく、現代に生きる新しい音楽文化として創造していきたいとの趣旨から、歴史や文化の異なる楽器、唄法を操るミュージシャンが同じ舞台でセッションするなど、実験的な演奏会となっています。
 
 シリーズ3回目となる今回は、アジアの民族音楽に共通している弦楽器に焦点をあて、筑前琵琶の上原まりさん、中国琵琶の印玉文(イン・ユーウェン)さん、三味線の本條秀太郎さん、沖縄三線(さんしん)の知名定男さんの顔合わせでセッションを行うとともに、東京国立文化財研究所民族芸能研究室調査員の山本宏子さんをゲストスピーカーとしてお迎えし、歴史的な背景などのお話をうかがいました。
 
 オープニングは、筑前琵琶、中国琵琶、三味線、三線という4つの異なった弦楽器による沖縄民謡「猫ユンタ(マヤーユンタ)」のセッションで、知名さんの歌に上原さんが合いの手をいれるなどのセッションが行われました。 続く第1部では、「弦楽器の奏でる伝統の調べ」と題して、各ミュージシャンがそれぞれの音楽世界を披露。再び、第2部の「四つの弦楽器による新感覚的セッションの魅力」で中国琵琶vs筑前琵琶、三味線vs三線などさまざまな組み合わせによるセッションが行われ、最後に全員参加による沖縄民謡のメドレーで幕を閉じました。

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 同じ弦楽器でありながら、バチや爪(演奏の時に指にはめるもので三線は人差し指に1つ、中国琵琶は5本の指全部につける)を巧みに使った演奏の違いや、また弾奏しながらの唄いや語りなどそれぞれの唱法の違いに驚き、かつ弦楽器としての響きの共通性に耳を澄ませるといった、興味深い演奏会となりました。
 
 同種でありながら異なった文化を経てきた楽器をテーマにしてひとつの演奏会を企画するというこの「新感覚的民族音楽シリーズ」。一歩間違えると、音楽家や専門家など、一部の人々に向けの企画と思われてしまいかねませんが、人々の生活に根づき、人々の生活と何らかの関わりをもち続けている民族音楽は、そもそももっと一般の人に開かれている音楽だと思います。できるだけ多くの人に触れてもらえるよう、主催する側としてもアプローチの仕方を考えなければならないと自戒するとともに、回を重ねるごとに新たな発見と創造があるシリーズに育てなければと思っています。

(那覇市民会館自主事業担当 屋良真理子)

 

●那覇市自主事業「新感覚的民族音楽」
◎第1回「笛に生きる」

1993年3月22日
[出演]大湾清之(琉球笛)、劉宏軍(中国笛)、石川高(笙)、竹井誠(篠笛)、山本宏子(ゲストスピーカー)

◎第2回「ザ・三線~三絃の競演」

1994年1月14日
[出演]費堅蓉(中国三絃)、杵屋裕光(長唄三味線)、鶴澤悠美(義太夫三味線)、澤田勝成(津軽三味線)、仲嶺伸吾(沖縄三線・古典音楽)、名嘉常安(沖縄三線・民謡)

◎第3回「弦と歌う」

1996年2月23日
[出演]上原まり(筑前琵琶)、印玉文(四弦琵琶)、本條秀太郎(三味線)、知名定男(沖縄三線)、山本宏子(ゲストスピーカー)

*会場は、すべてパレット市民劇場

 

 

地域創造レター 今月のレポート
1996年4月号--No.12

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