地域のアーツスタッフの実践的な養成講座がスタートして2年。これまで延べ212名の公共ホール関係者に参加していただいたが、OB同志が日常的に連絡をとりあったり、共同企画を練り始めるなど、アーツクルーのネットワークも除々に広がってきたと思う。
今回、会場として協力していただいた宮崎県立芸術劇場は、一昨年オープンしたばかりの新しい劇場で、音楽専用ホール 、劇場、イベントホール、豊富で利用頻度の高い練習場を備えた複合文化施設である。
この練習場で2月28日から3月3日までの4日間、基礎(18名) 、音楽(19名) 、演劇(19名) の3コースに別れて、総勢17名の講師を迎え、極めて実務的な講義からツーウェイのワークショップまで24コマのゼミが開催された。最終日には全員が一堂に会する懇親会も催され、自主懇親会?で深夜まで語り合うグループもでるなど、和やかな中にも真剣に議論する姿が見られたのが印象的だった。
参加者にとって特に発見が多かったのは、音楽コースのレクチャー&コンサートと演劇コースの作劇ワークショップである。いずれもツーウェイを意識したゼミで、参加者が自分の問題意識を体験的に確認できたことが高い評価につながったのではないだろうか。
2日目に催された作劇ワークショップは、大阪を拠点に活動する南河内万歳一座の作家、演出家の内藤裕敬氏が指導者になり、参加者自身が劇作家や俳優を体験するもの。
「部屋に入ると一通の脅迫状が届いていた……」というト書きに続く戯曲を参加者全員が30分で書くという劇作家ゲーム、女優の片桐はいり氏に参加してもらい、その戯曲を元に参加者が出演者になる俳優ゲームなどが行われ、参加者は5時間にわたって芝居づくりの醍醐味をつぶさに体験した。
短い時間ながら、両親を仲直りさせようとした子供の狂言芝居といった迷作? も生まれ、変幻自在に戯曲を解釈する内藤氏の演出マジックに一堂、演劇の奥深さを実感。参加者は「創造する楽しさがわかった」「同じ戯曲でこんなに違った解釈ができるなんて知らなかった」と発見の喜びに興奮気味だった。
この他、ピアニストの藤井一興氏がピアノの弾き比べをしながらモーツアルトから現代音楽家のメシアンまでを解説したレクチャー&コンサートも「音楽の楽しみ方がわかった」と好評だった。
改めて、体験的、実践的な研修事業の重要性を再認識させられた。
(田島幸博)
●講師
阿南一徳 あなんかずのり―――カザルスホール広報・宣伝マネージャー
石垣朗 いしがきあきら―――(株)クラフタツ代表
内田洋一 うちだよういち―――日本経済新聞社記者
岡村雅子 おかむらまさこ―――東京オペラシティ プロデューサー
片桐はいり かたぎりはいり―――女優
金守珍 きむすじん―――新宿梁山泊主宰
坂田裕一 さかたゆういち―――盛岡劇場事業係長
志賀玲子 しがれいこ―――伊丹アイホール プロデューサー
高橋直裕 たかはしなおひろ―――世田谷美術館学芸員
内藤裕敬 ないとうひろのり―――南河内万歳一座主宰
中村ひろ子 なかむらひろこ―――テレビマンユニオン プロデューサー
藤井一興 ふじいかずおき―――ピアニスト
横須賀徹 よこすかとおる―――元水戸芸術館事務局長
●講師&コーディネート
西巻正史 にしまきまさし―――社会工学研究所プロデューサー
児玉真 こだましん―――カザルスホール チーフプロデューサー
津村卓 つむらたかし―――伊丹アイホール チーフプロデューサー
吉本光宏 よしもとみつひろ―――ニッセイ基礎研究所 都市開発部副主任研究員
地域創造レター 今月のレポート
1995年創刊号--No.1