一般社団法人 地域創造

青森県三沢市 三沢市寺山修司記念館20周年記念特別公演「幻想市街劇『田園に死す』三沢篇」

 演劇実験室・天井棧敷を主宰し、短歌・俳句・詩、映画、エッセイなど多彩な活動で知られた“言葉の錬金術師”寺山修司。その寺山が9歳から12歳までを過ごしたゆかりの地、青森県三沢市に寺山修司記念館ができて20周年を迎えた。8月6日、その記念事業「幻想市街劇『田園に死す』三沢編」が行われた。
 主な会場は、記念館周辺、三沢駅周辺、中心商店街の店舗に寺山の言葉のオブジェなど30点を設置したテラヤマロード界隈だ。70年代に物議を醸した寺山の前衛的な市街劇『ノック』のように、テラヤマロード入口で地図を受け取り、街を歩くと、同時多発的に展開するイベントに遭遇する。米軍基地のある三沢らしい「アメリカ村構想」がつくり出したアーリーアメリカン調の商店街と古い商店街が共存する不思議な雰囲気も、この日の三沢空港が工事中で滑走路を歩かされたことも、すべてが寺山の仕掛けた怪しい企みのように思えた。

 「なみだは にんげんのつくることのできる 一ばん小さな 海です」、「書を捨てよ、町へ出よう」…
 12時、寺山の言葉が彩るテラヤマロードでオープニングアクトが始まった。「空に私自身を記述するこころみは 飛ぶことでしかないのでしょうか?」という信号を送り続ける手旗少女、『田園に死す』の主人公の白塗りの中学生、寺山のモチーフであるサーカス団の人々などが街中に散って行く。夕方5時、中央公園に組まれた巨大櫓では総勢約180名(市内外の参加者約100名)によるクロージングの群衆劇が始まった。街中を徘徊する人々の頭には地図と一緒に配られた寺山のお面。まさに街が寺山ワールドになった1日だった。

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上:テラヤマロード。アーリーアメリカンの町並み/下:『田園に死す』エピローグ(中央公園)

 プロデューサーは、記念館館長の笹目浩之だ(指定管理者の株式会社テラヤマ・ワールド代表。1万種以上の演劇ポスター収集・公開で知られるポスターハリスカンパニー代表)。
 「直営の頃は県内学生俳句コンクールなどの文学館的な運営をしていました。全国的な発信事業はあまりなかった。アクセスも悪く、市民も記念館との接点が少なかった。これでは寺山さんに申し訳ないと思いました。そんな時に私たちが指定管理者として運営を任されました」
 1963年生まれの笹目は十代の終わりに寺山の舞台を目撃し、人生を演劇に捧げると誓った。その死後、元妻で天井棧敷プロデュサーだった九條今日子に誘われてポスター貼りを生業にするようになり、今では寺山作品に関わるさまざまなプロデュースを手掛ける。“寺山のブランド化”を宣言し、縛られない寺山の精神を受け継ぎ、著書「家出のすすめ」を捩ったサキイカ「家出のするめ」や、渾名をネーミングにしたシュークリーム「テラシュー」などを仕掛けてきた。
 指定管理者になってからは発信事業や地域との連携に力を注ぎ、さまざまな切り口の「企画展」( 年2 回〜3 回)、5 月4 日の修司忌にはオリジナル遊戯もあってファミリー層が楽しめる「寺山修司記念館フェスティバル」、地元バンドが出演する「テラヤマ・ミュージック・ミュージアム」、寺山ゆかりのアーティストや有識者による「市民大学」を次々開催。13年から4年間は星野リゾート青森屋の敷地などで、入場無料の寺山演劇祭も行った。一連の活動の成果を見た市と商工会は、2016年に寺山を街の顔とするテラヤマロードを整備し、市の職員も多数スタッフとして協力した今回の市街劇へと繋がった。
 一方、まだ、基地のまちとしての生き残りを期待する人たちもいる。テラヤマロードにある銀座通り商店会会長の平野継昭は、「商工会の働きかけでテラヤマロードに協力したが、今でも財政難で整備が頓挫したアメリカ村に期待している。アングラ劇も寺山さんも好きだが、それで商店街が何とかなるような状況ではないと思っています」と言う。
 廃業する店舗も多く、米軍兵士も最盛期の5分の3。三沢が三沢として生き残っていくためには、新たな街の顔で活性化を試みるしかないところまで追い込まれている。「かつて寺山の市街劇は警察沙汰になったのに、いまは市民参加という新たな枠組によって警察も市民も取り込めてしまう。時代だなあと思います」(笹目)
 「私の墓は、私のことばであれば、充分。」と言った寺山の存在意義は、まさしく怠惰な日常から生の本質を貫く“言葉の力”にこそある。その言葉を生きたものとして伝えた記念館が仕掛けた市街劇で、人々は何を思ったのだろうか。(ノンフィクション作家・神山典士)

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