地域創造では「公共ホール等活性化支援事業」として、音楽・ダンス・演劇・邦楽・美術の各ジャンルで地域と連携した事業を展開しています。その中でも代表的な取り組みが、平成10年度にスタートした公共ホール音楽活性化事業(おんかつ)です。
この事業は地域創造がオーディションで選抜したアーティスト(28・29年度登録アーティスト7名)を地域に派遣し、市町村ホールとアーティストがお互いにアイデアを出しあい、アクティビティ(地域交流プログラム)とコンサートを企画・実施するものです。今年度は、9月から来年3月まで、全国15地域での開催を予定しています。今号のレターでは、その皮切りとなった石川県野々市市と大分県玖珠町の取り組みをご紹介します。
地元在住の演奏家と心温まる交流~野々市市
金沢市のベッドタウンである野々市市は人口約5万2,000人。1995年から20年以上にわたって本場のジャズミュージシャンがワークショップとコンサートを行う「BIG APPLE in NONOICHI」を継続し、ジャズの街として知られています。おんかつに参加したのは、その会場でもあり、ジャズ愛好家で建築史学者の竺覚暁さんが館長を務める野々市市文化会館フォルテ(804席の大ホール、300席の可動式小ホール等)です。1988年に開館し、ジャズや子どもたちを対象にしたコンサートなどの自主事業に力を入れ、来年30周年を迎えます。
担当の日裏由佳さんは、「クラシック音楽を地元に根づかせる入口にしたいと思い、おんかつに応募しました。金沢に行かなくてもクラシック音楽が聴けることを知っていただき、地元に愛着と誇りをもっていただければという思いもありました」と話します。
9月7日から9日まで野々市でおんかつを行ったのは、地元出身で現在も野々市市在住のヴァイオリニスト・坂口昌優さんです。期間中は自宅から会場に通い、顔馴染みの粟貴章市長に表敬訪問したところ、アクティビティへの市長視察が実現。トークでも出身幼稚園や小学校の話題で和むなど、地元出身アーティストならではのおんかつになりました。
1日目は、高齢者施設が併設されたほのみこども園と石川県立明和特別支援学校中学部、2日目は北陸学院扇が丘幼稚園と市役所に併設された野々市市情報交流館カメリアでアウトリーチが行われました。坂口さんは、「入院のお見舞いに行って演奏したときに周囲の患者さんにとても喜んでもらい、音楽は心を元気にする力があると感じました。その音楽を届ける活動を地元で行うことに特別な思いがあります」と感慨深げでした。
「音楽を聴いて自由に想像することを楽しんでもらいたい」というアクティビティでは、ベートーヴェンの『ヴァイオリンソナタ第2番』第1楽章のメロディーからイメージしたという自作の物語を朗読してもらいながら演奏。本番のコンサートでも地元劇団員の朗読と共演し、また、アクティビティの様子が映し出されたスクリーンをバックにしっとりとした演奏を届けるなど、故郷への思いを込めた感動的なおんかつとなりました。
マリンバの魅力でみんながひとつに~玖珠町
玖珠町は大分県中西部にある九州山地に囲まれた人口約1万6,000人の町です。日本のアンデルセンとして知られる児童文学者・久留島武彦の出身地で、今年4月にはその記念館がオープンしました。おんかつに参加したくすまちメルサンホールは2001年に開館した町民ホール(716席)、中央公民館、保健センターの機能を併せ持つ複合施設です。 担当の岳尾かおりさんは、「マリンバの奏者の塚越慎子さんのプレゼンテーションを聴き、幅広い人たちに楽しんでもらえるのではないかと思い、お願いしました。これをきっかけにメルサンホールの活動を理解していただき、応援してもらえるようになれば」との思いで、町議会の議場、町に2カ所ある自治会館、杉の子こども園でのアウトリーチを企画しました。 議場では、町議会議長の提案により、中学1年生約50人が議員席で、町長・副町長・議員および教育委員会職員や役場幹部が傍聴席で鑑賞するという町総出のアクティビティが実現しました。中学生の議場体験と関係者へのインリーチを兼ねた一石二鳥の企画でしたが、その場にいた全員が塚越さんの音楽と人柄に魅了され、本番のコンサートにも多くの人が駆けつける大成功となりました。また、自治会館では商工会や自治会の方を対象に、リズムの裏打ちを体験するワークショップなどが行われましたが、身近で聴くマリンバの音の虜になった人たちがここでもチケットを買い求めていました。 杉の子こども園では、小・中学生の女子で結成された杉の子ダンスチームと共演しました。本番のコンサートではマリンバの生演奏に合わせてダンスを披露するなど、プロの演奏家との共演は子どもたちにとって大きな刺激となったようです。 初めてのマリンバ・コンサートでもあり、集客が課題になっていましたが、町じゅうに塚越さんのポスターが貼られ、関係職員全員が塚越さんのCDを購入するなど万全のバックアップにより、約500人もの人々が本番のコンサートを堪能。岳尾さんは、アクティビティ参加者や多くの関係者が来場しているのを目にして感無量の様子で、「これからも続けていきたい」と確かな手応えに目を輝かせていました。